鈍感であること

 

 「あいつは鈍いやつだ」といえば、たいていは相手をけなす場合に使われる。しかし、現代では「鈍い」ことは決して悪いことではないようだ。それどころか、現代は「鈍い」ことが積極的に求められている時代であるともい える。たまたま本屋で「鈍感力」(渡辺淳一著 集英社)という本を見つけた。それによると健康である秘訣は鈍感であることだという。

 一般に、血液が「さらさら」流れていれば健康である。血がさらさら流れるためには、血管が広がっていなければならない。血管が狭まれば血液の流れは停滞し、その先の部分がただれ、潰瘍になったりする。この血管をコントロールしているのが自律神経であり、鈍感だと血管が狭まったりしにくいのだそうだ。
 

  一般に自律神経は、血管、心臓、胃腸、膀胱、汗腺などをコントロールし、人間の体の植物的機能を調整している。その調整は交感神経と副交感神経という二つの神経系によって、本人の意志とは無関係におこなわれる。

 緊張が高まると交感神経の働きにより血管が狭まり、反対にリラックスすると副交感神経により血管が広がる。緊張すると汗をかいたり(猿も緊張すると手に汗をかくらしい)、試験中にオシッコに行きたくなったりするのは、こうした自律神経の働きによる。驚きのあまり顔が真っ青になるのは、緊張のために血管が痙攣し、血の流れが止まるからである。
 
  最近、自律神経失調症を病む人が多い。私の周りでも何人かいる。ストレスで胃潰瘍になったり、夜眠れなかったり、偏食や肥満になったりと、ともかく大変である。渡辺淳一は、健康にすごす秘訣は交感神経が過度に働かないようにすることであり、そのためには「鈍感力」が重要であると説く。叱られてもへこたれない「鈍さ」、叱られてもすぐ忘れることができる「忘却力」が大切というわけだ。
 

  昔大学で習った先生が言っていた。カミソリのような鋭い刃で大木は切れないが、鈍刀ならいつかは切れる。世間の常識とは違って、「鈍い」ということは実は素晴らしいことなのだ。「私は鈍感で良かった・・・」、と最近しみじみ思う。
 

 

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